メゾン・エ・オブジェ・パリ 2018年1月展リポート

2018年4月6日

坂田菜穂子

2018年1月19日~23日まで、インテリア国際見本市メゾン・エ・オブジェ・パリ1月展が開催されました。毎年1月と9月に開催されるこの見本市。出展者や買い付けで来るバイヤーはもちろん、最新のトレンドを見るために来るスタイリストやコーディネーター、ジャーナリストも多いのは、さすがパリの見本市。ニューヨーク、ロンドン、ミラノと並び、世界のトレンド発信をする一都市として、重要な見本市の一つでもあります。

 

 日本からの出展者・来場者の傾向を見ると、1月展はJETRO(日本貿易振興機構)の出展支援があるため出展者・来場者ともに多いですが、9月展はこの出展支援がないため、出展者・来場者が減少することから、日本では1月展に注目が浴びます。

 ですが9月展は欧米のバイヤーがクリスマスへ向けて買い付けに来るので、バイヤーの購入額が1月展より増えるのが現状です。もちろん分野により異なりますが、雑貨小物、子ども服、玩具など、クリスマス商戦に向けての皮切りとして、両者にとって重要な商談の場なのです。このような理由から、1月展より9月展に力を注ぐ欧米のメーカーも多いのが現状です。

 今年もまたパリファッションウィークと同時期に開催する相乗効果をうまく利用して、昨年より+4% の89,495人*1が来場(20107年1月展は85,825人*2)。日本からの来場者は+7%、出展者は100社以上(うちJETRO支援の出展は約50社)となり、展示会への関心の高さが伺えます。また2017年9月展の来場者は、前年の9月展の+21.3%の78,419人*3。1月展の来場者数よりも少ないものの、1月展の増加幅に比べると、9月展の増加は大幅。メゾン・エ・オブジェへの人々の関心が戻り、テロ以降確実に人が戻ってきていることがわかります。

 トレンドセッターとしておなじみのネリーロディ社のヴァンサン・グレゴアール氏による、今回のインスピレーションテーマは“SHOW-ROOM”。

 インスタグラム、フェイスブックなどSNSが日常生活に欠かせない現在、インターネット上で買い物をする“サイバー消費者”は、自分の気に入ったものをアートディレクションしたり、インテリアに演出して発信。そんな彼らがトレンドに多大な影響を与えています。

 ここでは、ハッシュタグ付きでいくつかのキーワードごとに展示。気になる情報はこのハッシュタグですぐに発信できるというもの。展示会場(リアル)とインターネット(ヴァーチャル)上の膨大な情報の中から自分のお気に入りを見つけ、演出するヒントがたくさん散りばめられていました。

 今回の日本の出展者で目を引いたのが、地方自治体単位での出展が多いこと。昨年から引き続き出展の和歌山や岐阜、京都に加え、鹿児島や徳島などが見られました。その中でも紀州漆器5社と元nendoのメンバーであるタクトプロジェクトの吉泉聡氏が立ち上げた「KISHU+」の試みはとても面白いものでした。漆という日本の伝統工芸を現代に残す方法として、工業生産と手仕事の融合させた「先端工芸」が紀州漆器の出した答えでした。金属やアクリル、3Dプリントなど、従来漆の下地として使われないものを多用。またクライアントの要望であれば、本来漆にない色でも作るという柔軟な姿勢は、海外で紀州漆を発信していくという強い意思表示にも感じられました。

 

 一方日本のブランドも負けてはいません。前回から引き続き出展の北海道のPLYWOOD laboratry、福井のMOHEIM、東京のITO BINDERY、大阪のDRAW A LINEなどは、日本らしい機能的でありながら洗練されたデザイン、サステイナブルなプロダクトなど、バイヤーだけでなく、建築家やデザイナーなどの専門家にも注目されました。

 また初出展のNAGAE+は、富山高岡の金属加工技術を生かしたアクセサリーやバッグを出品。富裕層のマダムにぴったりのセレクトで展示会初日に会場で見かけた在仏デザイナーの高田賢三氏もとても気に入っていたそう。

 ヨーロッパでの日本の文房具はすっかり定着してきていて、マスキングテープのmt、MARK’Sは日本の文房具の代名詞になりつつあるといってもいいかもしれません。またPapier TigreやLa Petite Papeterie Françaiseはパリで最近人気のフランスの文房具ブランド。日本の文房具との違いを見つけ出すことで、次へつながる何かの手掛かりになりそうです。 

 次回の2018年9月展から、来場者のカテゴリーに合わせ、会場構成を一新するといいます。来場者のカテゴリーをショップなどのバイヤーと建築家・デザイナーなどの専門家とに分け、従来の会場構成を見直すだけでなく、いろんな要素が加わり、新たなスタートとなることでしょう。

 その背景には、今年のインスピレーションテーマであった、SNSの活用も一つの目的だと思われます。数年前からMOM/Maison & Objet and Moreと題して、特設サイトを設けることにより、来場者が出展者にいつでもすぐにアクセスできるというものですが、それだけでは不十分なのかもしれません。世界のトレンドを発信するパリの国際見本市だからこそ、SNSの存在には敏感になるのでしょう。また出展者の成功のカギも、まさにここにつながると思われます。次回から大きく変わる予感のメゾン・エ・オブジェに今から期待が膨らみます。

 

 

坂田菜穂子

東京新宿のリビングデザインセンターOZONEにて、デザイン・建築を中心とした展覧会・セミナー・シンポジウム、様々な建築家と子ども向けの建築ワークショップの企画・運営に携わり、その後渡仏。パリ近郊在住。

建築、デザイン、ファッションの通訳・アテンド、デザインリサーチ、営業などを行う。

 

naconeco@gmail.com

 

 

*1

http://www.maison-objet.com/content/Library_Pdf_I18n/418/file/original/5a74303b9665cj18_flashinfo_fr.pdf 

 

*2

http://www.maison-objet.com/content/Library_Pdf_I18n/373/file/original/589c8acf9f6d0M&O_J17_-_Flash_Info-FR.pdf

 

*3 http://www.maison-objet.com/content/Library_Pdf_I18n/408/file/original/59d5e56ab0c63M&O_S17_-_Flash_Info-031017_FR.pdf