最近のイタリアは、健康を意識する人が年々増加しているように思う。ナポリのような坂の多い街でも、週末となるとたくさんの人がグループでサイクリングをしたり、海辺をジョギングしたりしている。スポーツクラブも大盛況なようだ。
運動だけでなく、健康な食事への関心も増加している。レストランなどは、以前は著名なシェフによってつくられた料理が騒がれたが、最近のメディアでは、安全な食材を使って調理しているところの方が、話題になっているようだ。
これまで有機食材を購入できるのは、以前は小売りの専門店だけであったが、有機食材のみを集めたスーパーマーケットが登場し、普通のチェーン店スーパーマーケットでも有機食材を置くようになった。
スーパーマーケットでも頻繁に見かけるようになった有機農産物認証マークのついた食品。現在イタリアには、認証機関は20団体ほどある。(写真左、中央、右)
実際のイタリアの農業の状況はどうなっているのだろうか。
農林水産省と農協協会の報告書によると、イタリアは国土面積が日本より小さいのだが、平地だけでなく丘陵地や山岳地も農地として使用されるため、生産額全体は日本を少し上回る結果となっている。とはいえ、先進国の中で、それほど高い食料自給率ではないことが分かる。
しかし、イタリアは、EU内では、最も有機農業面積が大きい国であることが分かった。
農業形態は、英国やフランスとは異なり、小規模の農家が多いのが特徴である。これは、特に南部であるが、古代から大土地所有制度が存続していたため、大規模な農業経営が誕生しにくい土壌であったためである。
『農林水産業概況』農林水産省(平成29年)より 『我が国と諸外国の食料自給率』農協協会(2017年)より
有機食品は、80年代からのスローフード運動によって。一般家庭でも急速に消費されるようになってきた。有機栽培農業地も増加しているはずである。
イタリア農林水産省の2016年のデータによると、2015年と比較して20%もの認証を受けた有機食品が誕生したそうである。比較としてあげると、ドイツは8,9%の伸び率であったとある。
イタリア国内で、どのような製品が最も有機食品として伸びているかというと、以下となっている。
1. 野菜類 49%
2. 穀物類 33%
3. ワイン類 24%
4. オリーヴ 24%
州別に見ると、最も多いのが
1. シチリア島 364,000へクタール
2. プーリア州 256,000へクタール
3. カラーブリア州 204,000へクタール
また、有機農産物をより多く生産しているのは南ヨーロッパであるが、より消費しているのは北ヨーロッパであるとのことだ。つまり、欧州の有機農産物を支えているのは南欧ということになる。
さらに、欧州連合は、経済連携協定(EPA)により、欧州内の中小規模の会社による生産物輸出を促進させようとしている。イタリアが、農産物の輸出先としてターゲットにしているのが、アフリカと日本である。アフリカに向けては、開発援助による産業振興が目的であるが、日本を中心とした韓国などの極東アジア地域に関しては、チーズやワインなど、あらゆる種類の品質認定を受けたイタリア産の農産物を広めようとしている。
地元の農産物を地域再生の目玉にしようとする自治体や、宿泊施設やツアー団体などの観光業関連者も良く目にするようになってきた。
今後は、これらの農産物の生産地が注目されていくことになるのはいうまでもない。
日本で人気の高い各種イタリア産DOPチーズ。(左)
イタリア中部のある村の穀物のみを生産する農家(中央)
イタリア中部のある村の代々続くワイン農家(右)
イタリアでの観光客の伸び率の高い地域を観察する。ISTATの図を観察すると、見た目は外国人観光客の最も多い地域は、中北部のトスカーナ州、ドロミテという北部の山岳地帯、ヴェネチア周辺、ローマ周辺に集中している。しかし、伸び率に着目すると、大きな変化が起きている。
有機栽培を行う農地が増加している地域では、イタリアの中で、最も観光客の伸び率が高い地域に相当していた。
2016年夏季3ヶ月間のイタリア人を含めた観光客全体の伸び率を示すIstatの統計結果から見ると、イタリアの踵の部分のプーリア州に関しては23%、シチリア島が22%、サルデーニャが19%、トスカーナ州とヴェネト州が18%、カラブリア州とカンパニア州が12%となった。
これはもちろん、テロの脅威などから、近隣のイスラム圏にあるリゾートに滞在していた欧州人が、南部イタリアでのバカンスを選択するようになったことも影響しているだろう。また、イタリア国内で農業を観光にうまく使ってビジネスをする団体やグループも増大している。私も、最近幾つか取材した。
文化的建造物やモニュメントなど、特に何もない農業だけの土地で、若い人が面白いアイデアで起業しているのが印象的であった。農業の再生は、質の高い農産物を生み出し、地産地消の食材を使った美食を売りにして観光化へと繋がりはじめてきているようだ。農業復興が地域再生に繋がっている証拠である。詳細は、次の出版物で日本に向けて紹介していきたい。
地産地消の特産品のウェルカムドリンクを出してくれたアルベルゴ・ディフーゾ(ホテル)(左)
カラブリア州の海のリゾートでは、長期滞在のバカンス客向けの有機栽培の野菜と食品のみを取り扱った店(中央)
全て地元の食材を使って夕食の準備をするアルベルゴ・ディフーゾ(ホテル)の従業員(右)