とうとう2015年に突入し、5月1日からスタートするミラノ国際博覧会の準備も最終段階に入っている。
開催まであと2ヶ月となり、参加国145カ国の具体的な展示内容も毎日のように更新・公開されている。2010年上海で行われた国際博覧会と比べると、規模は小さく参加国も少なめだが、開催場所やテーマ内容から、アフリカ、中近東などからの参加が多い。
博覧会全体のテーマとサブテーマは以下である。
「地球に食料を、生命にエネルギーを(Feeding The Planet, Energy For Life)」
サブテーマ
1.「食料の安全、保全、品質のための科学技術」
2.「農業と生物多様性のための科学技術」
3.「農業食物サプライチェーンの革新」
4.「食育」
5.「より良い生活様式のための食」
6.「食と文化」
7. 「食の協力と開発」
「地球に食料を」という言葉は、地球上の人間の生命存続のための根本的・普遍的なテーマで、国によっては、切迫した重要課題である。参加国のテーマをみていると、先進国が「食文化」、「食の芸術」、「新しい食のかたち」、「食のグローバル化」をテーマにしていることが多いのに対して、発展途上国は「食糧危機」、「生産技術」、「社会経済・中小企業の発展」、「食の安全」などが中心である。中には、「農業開発」のために海外からの投資を期待するというテーマを掲げた国もあり、 世界の食糧問題の現状と格差を感じる。
世界の栄養不足人口を表した図
FAOの資料に、世界の栄養不足人口マップ (Hunger Map)というのがある。1990年には、アフリカとベトナム周辺の東南アジアも真っ赤で、栄養不足がこれらの国々に集中していた。2014年になると、東南アジアの栄養不足がほぼ解消されたのに対して、アフリカは24年経過しても改善されないままの国ばかりである。
アフリカの社会経済危機は、ヨーロッパにとっても見てみぬ振りができない問題である。欧州の中でも、イタリアとスペインは、欧州への難民受け入れ口となっており、特にイタリアには、南部から難民が押し寄せた。
シチリア島の最南端にあるランペドゥーサ島には、2000年頃から、続々とアフリカだけでなく、シリアやパレスチナ難民がボートで到着していた。2013年10月初旬にランペドゥーサ島海域で起きた、難民船の沈没事故は、イタリア人だけでなくヨーロッパ人にとっては忘れられない事故となった。
乗船していた難民は、政治的混乱の続くエトルリア、ソマリア、スーダンからの難民で、確認されただけで366人が亡くなるという痛ましいニュースであった。この事故直後に、イタリア政府の当時のレッタ首相は、1億1400万ユーロを投資して、約1年間沿岸警備を強化した。その後、リヴィアのカダフィ政権崩壊を受けて、リヴィアからランペドゥーサ島難民ルートは減り、イタリア・アドリア海側、ギリシア陸路経由で不法入国する難民が増加、2014年は前年の3倍以上の27万人にも膨れ上がった(2013年は10万人)。
既にシリア難民は、リヴィアルートよりも、直接ギリシアやイタリアを目指す難民の方が増えており、欧州はアフリカ・中東からの難民受け入れに苦労することになると予想されている。
イタリアの貧困
近年のイタリア経済危機で、失業率だけでなく貧困率も上昇している。
ドイツを中心に景気が回復しつつあるというユーロ圏で、フランスとイタリアの景気回復が遅れている。欧州最悪といわれたスペインよりも、イタリアの実質経済成長率が弱い。
主として途上国にみられる絶対貧困と呼ばれるイタリア人世帯数は、7,9%(特に南イタリアで、2011年の9.8%から12,6%に上昇)、相対的貧困に相当するイタリア人世帯は12.6%となった。人口の16,6%が相対的貧困、9,9%が絶対貧困のであるとされる(イタリア国家統計局2013年統計)つまり、10人に1人が生命存続の危機さえありうる貧困に窮している。
貧困率は、3人以上の子供をもつ家庭で高くなっており、家庭の主な働き手の学歴が低いほど、絶対貧困率は高くなっている。高齢者夫婦の絶対貧困率も、4%から6.1%へと上昇している。
こうした国全体の貧困化傾向とは逆に、北部イタリアの独身者の相対的貧困率は減少している。特に35歳以下の独身者の場合は、2,6%から1,1%である。これは、経済状況の悪化で、地方の家族の元にUターンしたか、相対的貧困にある若者が結婚したかのどちらかに相当すると推測されている。
その一方で、南イタリアでは、子1人世帯の相対的貧困率が減少し、31,3%から26,9%になった。さらに、主な働き手がサラリーマンである場合の相対的貧困率は、2011年の16,4%から2013年には13,6%となり、改善されている。
イタリア国家統計局による発表によると、2007年〜2014年を比較すると、イタリアの失業率はこの7年で2倍の12,2%となった。
持ち家・貯蓄などの10項目から判断して、経済危機の影響を最も受けたイタリアの町は、
1. ヴィテルボ市(ラツィオ州)
2. ラティーナ市(ラツィオ州)
3. ノヴァーラ市(ピエモンテ州)
4. コセンツァ市(カラブリア州)
などのイタリア中南部の小都市が、打撃を受けている。
その一方で、経済危機の影響を最も受けなかった町のランキングは、
1. ヴィチェンツァ市(ヴェネト州)
2. ボルツァーノ市(トレンティーノ=アルト・アディジェ州)
3. モデナ市(エミリア・ロマーニャ州)
4. マントバ市(ロンバルディア州)
となっており、ミラノも10番目に経済危機の影響を受けなかった町としてクレジットされている。
依然として、イタリアの南北経済格差がみられるが、工業で豊かなミラノ・トリノ地域に対して、ナポリより南の経済困窮地域という二極構造は崩れてきているようだ。ミラノよりも、ヴェネチア周辺、中北部イタリアへと経済的な豊かな町が移行し、南イタリアでも、観光に力を入れているプーリア州の一部、ナポリ内陸の工業や生産業が集結している地域などは、中部イタリアの一部の地域よりも豊かになってきている。
イタリア国内だけで、文化的にもヴァラエティのある町がたくさんあり、北部・中部・南部という経済的格差を抱えながら、一国として発展してきた経験を、ミラノ国際万博で十分生かすことができるかどうか楽しみである。
ミラノ国際万博会場のパヴィリオンで、毎日余った食料は、翌日にホームレスや、十分な食事をとることができない人達に支給することが決まったそうだが、何とか実現して欲しいものだ。